世界のお酒の中でも日本酒ほど水を厳しく選ぶ酒はないと言われています。水の中にはいろいろな無機質成分が含まれていますが、その成分によっては酒造りや酒の品質保持の面で悪い影響をおよぼす場合があるため、おいしい日本酒を造るには良質な水が欠かせません。
酒造りでは洗米、仕込み、瓶詰め用と原料米の重量に対して20~30倍の水が必要とされますが、中でも仕込みに使う水、そして割水といって最後に加える水の質が重要とされています。味、におい、濁りがないことは絶対条件ですが、こうじ菌や酵母菌の発育に必要なミネラル分が適度に含まれており、酒質劣化の原因となる鉄分やマンガン、有機物が少ないことなども大切な要件となります。
灘の「硬水」に対して秋田の水は全般に「軟水」であることから、その特性により、まろやかで決め細やかな酒を造りだしているのです。
古来より酒造りには天然水である湧き水や井戸水が適するといわれ、酒造家はあちこちに井戸を掘り良い水を探し求めたといわれています。その関係で、良い水が豊富に出る地域には酒蔵が集まり、銘醸地と呼ばれることも少なくありません。県内の三大河川、雄物川・米代川・子吉川とその支流には清冽な天然水の湧出するところが数多くあります。
湯沢市にある「両関」ではその庭先に湧出する良水を用いたことから「庭の井」という銘柄を使用し、県産酒としては初めて全国品評会で一等賞を受賞。また中仙町(現大仙市)の「秀よし」も庭先に良水が湧きこれを使用した酒質は古くから好評を博しました。
また、いかにしてさらに良質な醸造用水を得るかについて意を用い、自ら給水工事をした蔵元、あるいは遠くから車で吟醸用水を運搬して酒質向上に努めた蔵元なども多く見られたようです。また、蔵の近くに水質の良い井戸がありながらも、遠方から水を汽車輸送して使用したなどの例もあり、より良い清酒を造るために水に対する蔵元の強い意欲、先人たちの多大な努力は察するに余りあるものがあります。
県内各地に名水とよばれる場所は数多くありますが、代表的なひとつが湯沢市の「力水」であり、これは湯沢城址古館山の麓に湧き、適度なミネラルを含み、飲むと力が出るという評判の名水です。一帯は湯沢城主・佐竹南家の屋敷跡で、湧き水は御膳水として明治25年頃まで茶の湯や料理などに使われておりましたが、現在は一般開放され、水を汲みに訪れる人々が絶えない名所となっています。
もうひとつの名水は、仙北郡美郷町(旧六郷町)の「六郷湧水群」です。アイヌ語のルココッツィ(清い水溜りの場所)が語源といわれ、大小60余りの湧き水に恵まれた清水の里であり、大切に保全され、生活用水の一部として使用されています。
昨今は科学の進歩と醸造技術の改善向上にともない、浄水処理を行いさらに有効成分の加工等を実施して使用する場合もありますが、秋田県は天然の良質な水源に恵まれているため、この利を生かし清酒の品質向上に努めています。