秋田の酒大百科


2014.02.19

酵母の話(1)

酒造りにとって大切なものの一つに、酵母があります。

酒造りでの重要な役割

酵母の姿は、顕微鏡を使わないと見ることができません。レモンのような形をした微生物で多種多様な種類があり、お酒を造る場合には清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母などが使われます。
自然界では、果実や樹液、花の蜜などに生息しています。
酵母の活動には、糖が必要です。ワインの場合は原料のぶどうに糖分がありますから、酵母によって発酵してすぐにワインになります。しかし、清酒の原料である米には糖分が無いため、まず麹菌の力でデンプンを糖化して糖分に変えてから、酵母を加えます。酵母は、糖を吸収して細胞分裂を始め、増殖し、吸収した糖を分解して発酵します。これによりアルコールが生まれ、増加した酵母や精製された栄養分は酒粕へ移行します。また、酵母はアルコールをつくるほか、吟醸香や酸など清酒らしい香味をつくりだす重要な役割もあります。酵母の個性は、清酒の酒質にもあらわれるのです。

酵母発見からの歴史

お酒は数千年前からの歴史がありますが、醸造のしくみが解明されるまでは長い時間がかかりました。17世紀にオランダのレーウェンフックが微生物の存在を発見し、その後19世紀になってようやく酵母細胞が精密に観察され、1879年にフランスのルイ・パスツールが発酵は微生物により起こることを実証しました。
日本では明治28年(1895年)に矢部規矩治(やべ きくじ)博士によって初めて清酒酵母「サッカロマイセス・サケ」が報告されました。矢部博士は、この酵母は稲わらなどにいて麹にうつり、そして酒母から醪で増殖して発酵に至ることを証明しました。

明治37年(1904年)には国立醸造試験所(現 酒類総合研究所)が設立され、酵母や麹菌が詳細に研究されるようになりました。その後、全国新酒鑑評会で評価の高い酵母を日本醸造協会で採取し、純粋酵母として全国の酒造会社に頒布するシステムが整えられていきました。これが現在、日本醸造協会で頒布している「きょうかい酵母」です。明治時代までは自然の酵母や酒蔵に棲みついた「蔵付き酵母」「家付き酵母」に頼っていたために酒質が安定せず、失敗も多かったといわれますが、「きょうかい酵母」の頒布によって良い酒質の再現が可能になったのです。

1980年代以降の吟醸酒ブームにより、さらに香り高い酵母が多数つくられるようになり、地方自治体の研究機関などで新たな酵母開発が進みました。産地イメージを高めるため、各地での酵母開発の競争が激化し、その結果、吟醸酒だけではなく純米酒や低アルコール酒など、酵母の性能を生かした清酒の多様化や個性化が進みました。現在も、各地の工業技術センター、大手メーカー、バイオ研究所、農業大学などでさまざまな酵母がつくられ、注目を集めています。